思えば私は、彼の操り人形でした。暴力という糸で絡められ、罵声や命令で踊り狂う、彼だけのマリオネッタでした。そんな私はもちろんこの上もなく幸せでした。彼が私を殴るのは私がたた単にぐずで汚い淫売婦だからで、なじるのは彼が私を思ってくれるからこそだって、分かっているのですもの。(ああ彼以外見えない何も聞こえないオトモダチの声や言葉も意味が脳に届かない)(ドメスティックバイオレンスって、なあに?)

 主に踊る舞台は、ベッドです。おんぼろホテルの湿気たベッドで激しく情熱的に、扇情的な踊りは朝まで続き、満足なさらなかったお客様はいらっしゃいません。羽振りのいい常連のお客様から札束をせしめて、家に帰れば彼は私の頭だって撫でてくれるのです。恥ずかしながらこの行為は一般的な言葉で、売春。私は文字通りの淫売婦。ああでも私は、幸せ。幸せ。そして私たちは情事に花を咲かせる。お金の魔法は一夜で解けるけれど、ああ。幸せ。幸せ。私は彼の人形です。心はもう、そのものです。私の心はプラスティックへと、変わりきっているのです。ああ早く、身体もそうなりたい。
一夜明け、魔法が解けます。彼の手が私の身体中をばしんといたぶる。身体には赤と青の痣が斑模様を浮かばせ、ですが不思議と値は下がりませんでした。(傷物を愛おしむ殿方にとっては、その痣すらも芸術品のようです)






 ある日私は、ミスを犯してしまいました。最低最悪な、踊るだけの人形が、ぜったいやってはいけない、お客様をしらけさせるミスでした。彼は私を怒鳴り、ぶつ。彼との情事が慈悲ならば、お仕置きは無慈悲です。彼のお仕置きの後は二週間――長くて二ヶ月の休業をよぎなくされ、私は役立たずの烙印を押されます。(それだけは怖い!)(数々の暴力よりも罵声よりも、死んでしまうことよりも!)
 しかしやめてという言葉は火に油を注ぐようなもの。やめてという言葉が本当に制止するためには役に立たない場合が多いのです。それでも私は火に油を注ぎ続けます。やめてやめて! 顔を傷つけては、仕事ができなくなる! あなたのお役に立てなくなる! どうか私をがらくた人形にしないで下さい! 私はあなたを愛してます愛しているのですから! 私を、捨てないで!

 注いだ報いに炎は私に燃え移り、燃え上がったようでした。彼は窓ガラスが割れてしまうのも構わすに私をブン投げてしまいました。ああ、私の体が飛んでいく否落ちていく私の身体はまだ人形じゃない早くそうなりたい今なりたい。
(なるのならば身体は薄い陶器がいい。中身はプラスティックの心だけであとは空洞でも構わない)(軽い陶器でできたマリオネッタ、彼もその姿ならば可愛がってくださる)(もし不必要になって、こうして地面にぶつかればばりんと割れて音を立てて、壊れたい)(神様早く人形にしてくださいこのままじゃ醜い音がああもう間に合わな)ぐしゃっ。

 あれ、私死んだの?