砂の城は、明日の日の出を待たない内に崩落した。俺が蹴飛ばして潰したのだ。意味も理由もなく作り出されたものは、意味も理由もなく壊されて、ただの砂に戻った。



 深い闇の帰路につきながら、今日出会った少女について思い返してみる。
 秘密は、その名前からして変わった少女だった。その名を呼ぶたび内緒話をするような気持ちになりそうだが、いい名前だ。やることなすこと突拍子なくて、どちらかといえば野性的に生きているような少女である。というより理性的に考え一般常識をなぞりながら生きていける心が足りていない。壊れて麻痺したまま自動的に生きているような、俺と似た気配を感じる。秘密をよく知っているようであった、セト君と呼ばれていた子もおそらく同じだった。全く同類はよく見える。

 俺は、恐らく殺されかけたのだろう。
 セト君が俺へ注ぐ眼差しは最初から普通ではなかったので、彼が角材か何かを持って秘密に止められている様子を見ても驚きはしなかった。しかし逃げる事も、しなかった。子供の俺は砂遊びに夢中だったし、今の俺は殺されたかった。幽霊に動かされる亡骸のように生きているというのに、誰も俺を殺してはくれない。だから、いいチャンスだと思ったのだ。だから逃げなかった。
 しかし子供たちは俺を殺さず、俺を置いて行ってしまった。


 また、遊ぼうね。と言った俺の言葉は、子供の俺なのか、それとも今の俺なのか分からなかったが、少なくとも俺はまたあの少女と、出来れば少年にも会いたいと思っていた。ふり返されなかったその手を想う。想いながら、また幽霊のように歩き始める。