日が落ちた後の公園の砂場はしんと冷えている。 数時間前校内から突然姿を消して、そのまま帰ってこなかったこの女生徒、 「ミツ」 なげやりに呼ぶと、こんな近くにいたというのに今気づいたような様子で、ミツが振り返った。願わくはこのとき、「セトくん!」とひとかけらでも嬉しそうに破顔一笑してくれたら可愛いと思うのだが。 「何やってんの?」 「お城を作っていました」 城だったのか。でこぼこすぎて山にしか見えなかった。 「そっか。お城か……。大変だったろうね。それで、それでねミツ」 「はい」 「その人、だれ?」 かっさかさの声で問う。僕が指をさすミツの向かい側には明らかに大人なのだけど、振る舞いや服装が子供みたいな、いびつな青年がいた。砂の城? だって、ミツの数倍楽しそうに作っているし。少なくとも僕の存在に気づかないくらい。 「駄目です。人を指差しては」 ミツは僕を咎めてから、目の前にいる男をじっと見た。たっぷり数秒間そうしていて、やがて首を横にふる。 「……知らない人なの?」 頷かれても。 日が沈み闇になっていても、その男の服がかなり色とりどりであることがわかった。成人男子が身につけるものとはとてもじゃないけど思えないものだ。その服もミツのもののようにひどく汚れていた。違うところと言えば、泥をひっかけられたみたいな跡がいくつもついていることくらいだ。それについて追求する気はない。どうせやったのはこの娘だろう。 僕が来たことなんてたいしたことじゃないみたいに、二人はどう考えても山にしか見えない、砂の城作りに没頭し始める。大きさから作り始めてだいぶ時間が経っているに違いない。暗くなる前には子供もいただろうに。自分より年上の女の子と男がむかいあってもくもくと砂場を陣取っている姿はたいそう近寄りがたかっただろう。僕だってミツを見つけてから声をかけるのを、数分ためらって見ていたくらいだ。 「ひーちゃん、これ、いつできるの?」 男の問いかけをミツは綺麗に無視した。僕は、男が喋りだしたことに少しだけ驚いていた。予想以上の幼い口調に、ぐらっとめまいがした。子供よりも下手な喋りかたかもしれない。だけどこの声の低さと、彼が口すさむアニメの主題歌がだいぶ古いものであることから、彼が大人であることは……、間違い、ないと、思うの、だけれど……どうだろう。だんだん分からなくなってくる。っていうか、ひーちゃんって。男のことは知らないくせに、自分の名前は教えていたのか。 ぎりっと歯を噛みしめる。僕はひどく、いらだっていた。ミツにじゃない。この男がここにいて、ミツと一緒にいることにいらだっている。腹がたつというより怖かった。身を削られて、血が流れ出るようにすり減らされる。やがて僕はなにもなくなりいなくなるかもしれないという先の見えなさが怖くてその原因であろうこの男はそんなこと意に介さず無邪気に笑ってすらいるがどうしようもなくムカついて男の鼻歌が曲のサビにさしかかった瞬間に、たがは外れた。 → ← |