君はずっと俺の部屋に居てよ、と言われた。


 その部屋には色がない。生きていくために必要なものを全て捨て去られ、白っぽい小さなビルの模型が、所狭しとしきつめられて、ごちゃごちゃしているのに、まるでなにもないようだった。
 わたしは白い服を着せられて、そこでよく写真を撮られる。あの人はおもちゃみたいなカメラが好きで、不鮮明だとは知りつつもそれを好んだ。ビルや木の模型たちはすべてわたしより小さくて、わたしは街を壊しにきた怪獣みたいねって笑った。そしたら壊していいよ、と彼は写真を撮りながら言うので、どうしてなのかわたしは、火がつくような気持ちになった。
 彼に映し出されたわたしはわたしではなかったけれど美しかった。美しかったけれどわたしではなかった。そのわたしは、ジオラマの一部だった。人物というよりも景色。そこにはわたしのような模型が横たわっているが、わたしはいない。
 壊していいよ。シャッターをきるような、あの声がよみがえってくる。

 壊していいよ。
 壊していいよ。
 壊していいよ。

 壊れていいよ。
 と、言われていた気がした。



 昨日、あの人に君はずっと俺の部屋に居てよと言われ、申し訳程度の愛をいただいた。だけどあの人はわたしをジオラマとして愛している。作り上げて飾り立ててそれを喜びとしている。わたしは考えてしまう。このまま物体として愛されてしまうか、すべて壊してゴミ捨て場に放り投げてしまうか。






     




(すべてを捨て去る強さがほしい)
(この白い街からいつか逃げだせるように)







material chaton noir