遥かは、たくさん傷つける男だった。
 自分も、他人も等しく傷つける男だった。

 遥かは傷つける人だったが、きつい物言いはしなかった。やさしすぎるくらいやさしい人だが、人を傷つける男だった。だから自分も傷ついた。
 遥かが人を傷つけるのは、やさしいことは正しくないからだ。彼は間違っていて、取り返しがつかないぐらいに誤っているから、やることが片っ端から破綻していた。それを取り繕うと悪あがきして、どんどん深みに嵌るさまはまるで、溺れていく人間のようだ。遥かは自らに溺れ自らに壊され自らで壊して、心を痛めて殺されていく。それなのに、ぎりぎりで生かされている。もう足もとも覚束ないまま、生きている。









 私は誰も傷つけない女だった。
 自分も、他人もどちらも必要としない、女だった。

 私と誰かの間には、薄いラインがあって、どうしても踏み越えることは許されなかった。傷つく心配も傷つけることもない。私には、バリアーがはられていた。透明なようでも実は武装しているから、私は傷つかなかった。痛みを覚えることも、苦しむこともなかった。海に入らず、深くは潜らないから、私は溺れることがなかった。
 敵もなく見方もなく独りで生きている。傷つくことも傷つけることもせずに生きているふりをしている。






 遥かは死にそうになりながらも生きている。
 私は生きているようで本当は死んでいた。









title 星葬