私という名の道化師には顔がありません。





 ほかに声も片足も欠けていて、眼もあまり遠くを見られない。とてもじゃないけど、君には会えないので、手紙を、書くね。それだけは許されたから。こちらの住所はいっさい書くつもりがないから、一方的な手紙になるけれど許して。私の身体で唯一きれいな部分で、君への手紙を書いてみたかったんです。文字が、きれいに書けるのも、少し自慢。書いてばかりいたから。色んな言葉を。毎日、ハードカバーのダイアリイに、私が壊れる様子、ずうっと書きつづけていたから字を書くのは得意だよ。


 さてと、いったい何から書きはじめようか。君に託す言葉は私の中にたくさんあると思ったけれど、ほんとうは手のひらからこぼれてしまうくらいしかないみたい。書くことが見つからないのは、とても孤独なこと。おとしものをしてきた夜みたい。私、夜に散歩をするのがすきだよ。足がひとつないから、うまく歩けない。だから遠くへは心だけしか行けないけれど。ここの星は全て誇らしげにかがやくから、私、いつも夜は上ばかりむいていて、タマシイだけがふわり、って、小さな音をたてて身体からはなれていく。私にはあまりにも身体がかるくて自由すぎるから、何かを落としても気づかない。夜が明けてから気づいて涙をながす、そんな感覚。


 私は会ったこともない、これからもずっと会えない君のことを、夢に見続けている。夜にタマシイを飛ばすたび、会いに行きたいと願っています。私は君のことが、すきなのかもしれない。どうして、なんて聞かないでね。返事が出せないから、聞けないよね。私は君に恋をしている夢を見ていたいよ。これからもずうっと。空を見れば星がかがやいている。私は身体をぬぎすてて夜を自由に歩ける。そして、君に恋をしている。そんな夢を見ていてもいいよ、ね。それくらい構わないでしょう。君も許してくれるよね。



 懐中時計が午後六時四十五分をさしている。そろそろ行かなきゃいけない。私は道化師だから、踊らないとね。声も、足も、顔も、欠けているけれど、仮面をつけたらずっと笑えているから大丈夫。たとえどんな血を流しても私は笑っているよ。満面の笑みをいつまでも浮かべている。この手紙は舞台へと行く道にあるポストに落としておく。途中道ばたにころがしてしまって泣かないように気をつけるね。














































( 私は道化師 )


( 明日も踊る )
( 明後日、も )


( 私は何度も )
( 夢を見るね )
( 何度も、何度も )
( 夢を見るね )


( 明日も明後日もずうっと )
( 夢を見ながら )


( 踊り続ける )

( ずうっと )









( 踊れ、踊れ )