スイッチを切る。








 部屋の電気のスイッチを切る。真っ暗になったら、再び明かりをともして、それからもういちど切る。それを何十回も繰りかえしている。目の前がちかちかして、吐き気をもよおしても。スイッチを切る。何十回も。カチッ、カチッ、という音に切りきざまれていくように、ほかの音が遠くなる。点滅をするだけの部屋は、夢のなかのように静かで、カチッ、カチッ、という音だけが、どんどん機械化してゆく。私の手には血が通っているのに。


 一瞬のはげしい光の破裂のあと、電気がとうとうつかなくなる。私がスイッチを切っても、切らなくても。スイッチを切る。電球のフィラメントは焼き切れている。スイッチを切る。反応がない。電球を交換しないかぎりは、光がふたたびこの部屋にともることはない。スイッチを切る。もう一度点け直しても、部屋は真っ暗なまま。電球を交換しなくては、夜をむかえるたびにこの部屋は暗いまま。


 音だけは変わらない。スイッチを切る。カチッ、カチッ。その音だけは変わらない。ただ部屋は依然として暗いまま。目がだんだん暗闇に慣れてきて、白っぽい私の手だけが浮かび上がる。血の気が失せたような色だと思う。スイッチを切る。部屋は暗いまま。たとえ電球を交換しても、私に光はない。明るい場所にいても、ここにいても、私は独りのまま。スイッチを切る。ただ、辛気くさく膝をかかえているよりは効率がよかっただけ。
 スイッチを切ることをやめる。